研究概要 |
事業の遅延によって生じる社会的損失を軽減するため,1999年の経済審議会答申,2000年の土木学会「仙台宣言」等において,「時間管理概念の導入」が謳われた.これに対応して幾つかの既往の研究が社会資本整備における「遅延の損失」の計測を試みるなど,時間管理概念の重要性が徐々に認識されてきた.ところが,これら先行研究で試算された「遅延の損失」に関しては,行政によって予定された供用開始時期を遅延の基準としている,リスク・不確実性下での事前・事後を混同している等の理論的不整合が見受けられる. そこで今年度は,これらの先行研究と理論研究とにおける時間管理概念を巡る見解を整理し,時間管理概念導入による経済的影響の把握を行った.リスク・不確実性下においては個別事業の遅延の積み上げでは経済全体の損失を計測できないこと,および最適化の概念が必要であることを踏まえ,経済成長理論を採用した.マクロ経済を考えることにより,各事業のリスク・不確実性の影響が相殺され,さらに経済成長理論の適用によって,各経済主体の行動の変化を捉えることを可能とした.その結果,整備期間短縮によって影響を受ける経済変数、及びその変動に寄与するパラメータも判明した. 以上の設定のもとで数値シミュレーションを行った結果,時間管理概念の導入によって全事業の整備期間を現状値から1割短縮した場合,年間500兆円のGDPに対して,年間1兆3000億円程度のGDP押し上げ効果が得られることが推定された(現状の平均整備期間5年・実質利子率4%,GDPの社会資本弾力性0.1,社会資本の減価償却率1.3%の上での結果).
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