研究概要 |
本研究ではメカニカルアロイング法とプラズマ焼結法を用いて世界で初めてセメンタイトバルク材を作製しその特性を評価した。 セメンタイトは鉄鋼材料における最も基本的な構成相の一つであるにもかかわらず、準安定であるためその特性がほとんど不明であった。本研究では純鉄とグラファイトを適当な時間ボールミルした粉末をプラズマ焼結することによって任意の大きさのセメンタイトバルク材を作製すること、それの機械的、物理的特性を評価することを目的に行った。 純鉄とグラファイトをMAした粉末を焼結すると、相対密度は約98%の純セメンタイトの焼結体が創製できた。焼結体は純鉄に似た金属光沢をし、硬さは10GPaと純鉄の10倍であり,ヤング率は190GPaと純鉄より10%程度小さい値であった。熱膨張係数は210℃以下では6.8x10^<-6>/K,以上では16.2x10^<-6>/K,電気伝導率は100/μΩ・cmであった。 Mn, Cr, Mo, Vを添加するとそれらが鉄原子と置換した合金セメンタイトが作製できた。しかし、Si, Ni, Ti, Al, CuではFeの5%を置換した場合でも焼結体は大半がセメンタイト以外の相になった。合金セメンタイトは熱的に安定で、1273Kまで分解が起こらなくなった。合金を添加することによって硬さは増加するが、その傾向はCr, Mn, Moの順で顕著であった。CrやMnの添加によって室温でのヤング率の上昇、熱膨張率の増加、比熱の減少などが観察された。 以上本研究により、これまでその特性がほとんど不明であったセメンタイトの物性を世界で初めて直接測定することができた。この結果は鉄鋼材料の特性の制御のみならず、磁気記録材料としてのセメンタイトや地球物理(地球の内殻はセメンタイトとされている)、宇宙空間物質の研究にとって重要な知見を与えるものである。
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