研究概要 |
金属結晶内で発生するき裂はしばしば塑性ひずみが集中する固執すべり帯(PSB)に沿って形成される.PSBはWallとChannelから構成されるはしご状転位構造によって特徴づけられる.したがって,このはしご状転位構造を検出することによって,疲労き裂の発生を事前に知ることができる.しかし,従来のTEM観察では材料を薄膜に加工しなければならない.本課題では,金属結晶の疲労破壊を未然に防ぐことを目的として,非破壊的な転位構造観察を試みた.実験モデルをできる限り単純化するため,銅単結晶試験片を用意した.それらの単結晶に定塑性ひずみ振幅の繰返し変形を与え,そのときの表面近傍の転位構造をElectron Channelling Contrast Imaging(ECCI)法で観察した.試験片に繰返し変形を与え,そのヒステリシスループ形状の変化を調査したところ,[123]引張軸の単結晶では約1200サイクルでバウシンガエネルギパラメータbEが極大値になった.PSBはこのbEの極大値付近で形成されはじめると考えられている.500サイクル後のECCI観察ではイメージに特徴的なコントラストの変化は見られなかったが,1500サイクル以降では主すべり面に沿ったバンド状の構造が観察された.この構造を高倍率でECCI観察すると,間隔が約1.4μmのはしご状の構造が観察された.この構造は,形状・寸法ともに従来TEMで観察されているPSBと一致しているので,表面近傍のPSBであると言える.また,[001]多重すべり方位では格子状のコントラストが観察された.このようなコントラストは[001]引張軸で観察されているラビリンス転位構造に起因していると考えられる. このようにECCI法を用いることによって,表面観察からPSBを非破壊的に観察できることを示すことができた.
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