研究概要 |
本研究では,セイヨウナシとの種間交雑やリンゴとの属間交雑を利用したニホンナシへの複合病害抵抗性の新しい育種法を確立するとともに,これらの雑種を利用した効率的な連鎖地図作成と今後の育種におけるDNAマーカー利用の可能性を検討した。 1.自家和合性のニホンナシ品種'おさ二十世紀'とセイヨウナシF1品種'大原紅'との交雑系統(Os×Ob)において,赤葉形質とナシ黒斑病,ナシ黒星病及びナシ赤星病に対する病害反応性は,いずれも1:1に分離し,期待値に適合する値が得られた。 2.開花・結実したこれらの交雑系統における果実形質の遺伝分離を解析した結果,果皮色(Red),果形(Fsl)及び追熟性(Rip)はそれぞれ一対の優性主働遺伝子によって支配される形質であるのに対し,成熟期,果重,糖度などの形質は連続的な分散を示し,量的形質遺伝子座(QTL)に支配される形質であることが示唆された。 3.ナシ黒斑病に連鎖するRAPDマーカーをバルク法により探索した結果,極めて密接に連鎖するRAPDマーカーCMNB41/2350が検出された。 4.Os×Obの交雑後代90系統を用いて,RAPDマーカーを主体とした連鎖地図を作成した結果,'おさ二十世紀'では,全長404.9cM,10連鎖群29遺伝子座からなる連鎖地図が,'大原紅'では,全長930cM,20連鎖群70遺伝子座からなる連鎖地図がそれぞれ作成され,ナシ黒斑病感受性遺伝子(A),S遺伝子(S),赤葉形質(Red),追熟性形質(Rip)などの有用形質がマッピングされた。 5.リンゴ'ふじ'とナシ'大原紅'との交雑系統(F×Ob)を胚培養によって育成し,これらの交雑系統について,新梢の表現型,S遺伝子型,アイソザイム遺伝子型,SSRs遺伝子型,RAPDマーカー及び染色体数について解析した結果,これらのF×Obの交雑系統はいずれも'ふじ'と'大原紅'から均等にゲノムを引き継いだ対称雑種であることが確認された。F×Obの交雑系統を用い,リンゴ斑点落葉病,リンゴ黒星病,ナシ黒星病及びナシ赤星病に対する病害反応性を調査した結果,供試したF×Obの5系統はいずれもこれらの病害に対して抵抗性を示した。 6.対称性が確認されたF×Ob17系統を用い,RAPDマーカーを主体としたリンゴとナシの連鎖地図を同時に作成した結果,'大原紅'では,全長1371.2cM,20連鎖群114遺伝子座からなる連鎖地図が,'ふじ'では,全長1204.5cM,13連鎖群82遺伝子座からなる連鎖地図が,それぞれ作成され,その一部はSSR遺伝子座で統合することが可能であった。
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