研究概要 |
ウシエビ筋肉からアフニンラセマーゼを単離した.精製酵素を断片化して幾つかのペプチド断片を精製し,部分一次構造を決定した.これらペプチドのアミノ酸配列は細菌類の同酵素との相同性が認められたが,40%以下の相同性であった.ウシエビの本酵素は細菌類の酵素とは構造および性質がかなり異なるものと考えられた.部分配列を基に抗血清を作成し,これを用いて細胞内分布を調べ,またcDNAライブラリーのスクリーニングを行っている. 魚類のD-アミノ酸およびD-アスパラギン酸オキシダーゼの分布は種特異的で,食性との関係が認められた.D-アラニンの投与によりD-アミノ酸オキシダーゼは消化管,肝膵臓および腎臓の活性が上昇し,誘導酵素であることが判明した.D-アスパラギン酸オキシダーゼはD-アスパラギン酸およびD-グルタミン酸によって誘導されなかった.また,両酵素とも哺乳類と同様にペルオキシソーム局在性であることが判明した.コイ肝膵臓からD-アミノ酸オキシダーゼのcDNAクローニングを行い,267アミノ酸残基をコードする801bpのPCR産物を得た.ヒトおよびブタ酵素との相同性は58-59%であった. アメリカザリガニ,クルマエビおよびチョウセンハマグリを高浸透あるいは低浸透順応させたところ,いずれの種においてもD-,L-アラニンは環境浸透圧上昇に伴って組織中に顕著に増加し,D-アラニンは細胞の等浸透調節のための最も有効なオスモライトであることが判明した.一方,アメリカザリガニを海水に順応させた後,無酸素状態におくとD-,L-アラニンが筋肉および肝膵臓で増加し,回復過程で低下した.これらの結果から,D-,L-アラニンは乳酸と共に,嫌気的代謝の最終産物であることが判明した. 以上本研究において,初めて無脊椎動物におけるD-アラニンの生理機能が明らかにされ,D-,L-アラニンの相互変換を触媒するアラニンラセマーゼの部分アミノ酸配列が決定された.一方,D-アラニンをもたない魚類では腎臓,肝臓のオキシダーゼ類によりD-アラニンをα-ケト酸に分解し,解毒することがわかった.
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