研究概要 |
(1)近位尿細管の薬物輸送体P-糖蛋白の機能: P-糖蛋白(P-gp))が正常の尿細管に存在して、機能を果たしているかを明らかにするため、この蛋白をノックアウトしたマウス(mdr1a/ab(-)(-))を用いてその機能の解析を試みた。単離潅流したPSTを用いてP-gpの輸送基質であるローダミンの細胞内への取り込みをその蛍光を指標にして顕微蛍光測光を行った。野生型とKOマウスと比較した。前者では取り込みのT_<1/2>が34秒で、抑制薬であるverapamilによって434秒に延長した。後者では、無処置でもT_<1/2>は407秒に延長して、verapamilでさらに延長しなかった。また。ノックアウトマウスにdigoxinを反復投与すると腎組織へのdigoxinの蓄積は野生種と比べ著しく高くなった。このことから正常でも近位尿細管の管腔側膜にP-gp輸送体があり、薬物輸送に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。PKCの刺激薬(PMA),抑制薬(staurosporin, H-7),PI3-kinase抑制薬(wortomannin, LY294002)などを用いて同様の実験により、野生種ではP-gp輸送体を経由する薬物の輸送はPKCおよびPI-3キナーゼのそれぞれ独立に依存する過程であり、ノックアウトマウスではこの過程が欠落していることが明らかにされた。 (2)周産期の尿濃縮機構の鳥類型から哺乳類型への変化: 周産期のラット腎髄質より経時的にヘンレループと集合管を単離灌流し、水、Na、尿素輸送を詳細に検討するとともに,各種輸送体の発現の変化を追跡した。その結果、胎生期にはヘンレのループは上行脚はNa能動輸送、下行脚は水透過性が泣くNa透過性が高く、集合管の尿素透過性がないなど鳥類の髄質機能を示した。これに対して生後まもなくからヘンレ上行脚殻能動輸送が消失し、Cl選択性のチャネルが出現するとともに、集合管ではバゾプレシン感受性の尿素透過性が出現するなどの哺乳類型の腎髄質機能に急速に移行することが明らかとなった。個体発生は系統発生を繰返すことによって、より高度な尿濃縮機構を獲得することが明らかにされた。
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