研究概要 |
肝線維嚢胞症に属する代表的疾患として,カロリ病ならびに先天性肝線維症(congenital hepatic fibrosis, CHF)がある。本研究では,新たに発見された肝線維嚢胞症を発現するラット(polycystic kidney rat ; PCKrat)を実験動物として用い,同ラットの肝線維嚢胞症の特徴や成立機序に関する検討を行い,ヒト・カロリ病ならびにCHFの病因,病態の解明を試みた。得られた成果を以下に要約する。 1.病理組織学的に,PCKラットにおける肝内胆管の拡張は多発性,分節状の嚢状拡張であり,CHFを伴うヒト・カロリ病に極めて類似していることから,PCKラットは同疾患の有用なモデル動物となりうると考えられた。 2.PCKラットでは,拡張した肝内胆管の基底膜において,主要な基底膜構成蛋白であるラミニン,IV型コラーゲンの断裂や消失が認められた。CHF/カロリ病でも同様の変化がみられ,基底膜構成蛋白の異常が胆管拡張の発生・進行に関与している可能性が考えられた。 3.CHF/カロリ病における,肝線維化に関与するCTGFやTGF-βの発現様式・動態は,対照疾患群(慢性肝炎,アルコール性肝疾患等)とは異なっており,CHF/カロリ病にみる肝線維化は,慢性肝炎等とは成立機序が異なることが示唆された。 4.PCKラットや培養肝内胆管上反細胞は,対照ラットと比較して著明な増殖活性亢進を示した。cDNAマイクロアレイ法による検討では,PCKラットの培養胆管細胞で,細胞増殖やアポトーシスに関連する因子(MEK5,TGF-β3,bFGF等)の遺伝子発現の亢進がみられた。また,PCKラットの培養胆管細胞はEGFに対して過剰な増殖反応を示し,EGF受容体阻害剤の投与は過剰な培養胆管細胞の増殖を有意に抑制した。 以上,CHFを伴うヒト・カロリ病のモデル動物とみなしうるPCKラットでは,基底膜構成蛋白の異常,あるいは遺伝子レベルでの細胞増殖制御の不調和があり,それらによる肝内胆管上皮細胞の異常増殖が肝内胆管拡張の発生に関与している可能性が示された。これら一連の成果は,ヒト・カロリ病ならびにCHFの病因,病態の解明に繋がるものであると考える。
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