研究概要 |
癌抑制遺伝子p53のファミリー遺伝子であるp73を中心に,p63もふくめて検討を行なった.その結果,肺癌細胞株においてp73遺伝子の変異を高頻度に認めたため,その肺発癌における役割に関してさらなる検討を加えることを目的として,変異p73遺伝子のその遺伝子機能に対する影響を検討した.3種の肺癌細胞株にp73遺伝子の異常が認められたが,そのうち,特にNCI-H1155にみられた異常が特に興味深いものであった.NCI-H1155のp73遺伝子は,そのDNA結合領域内に異常を持っており,この異常は蛋白の核局在には影響を与えず,蛋白の転写活性は消失していた.さらに,p73のコロニー形成能も消失していた.変異蛋白は,野生型蛋白との共存下で,野生型蛋白の機能を阻害した.よって,このmutationは,dominant-negativeなmutationであることが明らかとなった.さらにNCI-H1155は,p53にも,そのDNA結合領域内にinactivatingな異常を有していることも確認した.これらの結果は,p53,p73が同時に抑制されることが,発癌上有利に働く可能性があることを示唆している.p53と比較し,p73の遺伝子異常がそれほど認められないため,p73を通るアポトーシス経路の重要性に関しては議論の多いところである.我々の結果は,p73依存性アポトーシス経路の重要性を示唆するものである.
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