研究概要 |
我々はこれまで放射線誘発甲状腺癌の発症分子機構の解明と同時に甲状腺細胞のアポトーシス抵抗性のメカニズムを明らかにしてきた(N. Mitsutake, et. al. Oncogene 20:989-996,2001)。その過程でクローニングされた遺伝子の調節領域をさらに明らかにすることによって、甲状腺癌に特異的な放射線標的性を有する遺伝子治療の開発を目指すことを今回の研究の目的とした。放射線照射で甲状腺癌細胞に選択的に誘導される遺伝子レパートリーの候補はSAGE法(S. Shklyaev, et al. DNA Sequence 11:281-286,2000)とSubtraction PCR法(Y. Shimizu-Yoshida, et. al. BBRC 289:491-498,2001)により決定した。特に後者の手段によりクローニングした遺伝子hSNKは細胞周期のM期を調節する機能が推測されているpolo-like kinase family遺伝子群の一種であり、ストレス応答遺伝子と考えられているものである。その調節領域にはp53 response elementがあり、放射線照射に応答するもののp53 independent signalingであることが推定されている。今後hSN遺伝子を分子標的としたがん治療の応用を検討する予定である。 次に甲状腺癌における分子標的化をめざしたがん遺伝子治療として、いくつかの工夫をかさねた。一つにはやはりストレス応答遺伝子の代表であるHeat Shock Protein 70のプロモーター領域を用いるものである(V. Braiden, et. al.. Human Gene Therapy 11:2453-2463,2000)。またp53 response elementによる選択性をCre-Pox-P systemにより増強することも(Y. Nagayama, et al. Cancer Gene Therapy 8:36-44,2001.)有用性の可能性を示した。今後我々の見い出した放射線調節領域を用いた甲状腺未分化がん特異的な遺伝子治療についてさらに検討していきたいと考えている。
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