研究概要 |
膵癌は極めて予後不良な疾患である.これまでに多くの手術方法や,新しく開発された抗癌剤,放射線療法などが試みられてきたが,生存率は全く改善していない.癌が遺伝子変異によって発症する疾患であることが明らかになったことから,診断法および治療法に遺伝子学的手法を導入する研究に期待が寄せられている. 膵癌に対する有効な遺伝子治療を開発するためには,(1)膵癌において癌としての性質を表現している原因遺伝子を同定し他の癌と比較すること,(2)癌で特異的に発現する遺伝子を同定すること,(3)膵癌の性質を抑制する治療遺伝子を開発することが必要である. 我々は,多くの癌において浸潤や悪性度と相関する遺伝子を解析し,その発現様式と病理学的因子との相関について検討を進めてきた.RCAS1遺伝子は癌で特異的に発現し,免疫を回避することで癌の進展に関与すると考えられているが,今回,この遺伝子発現が膵癌・食道癌・胆嚢癌・胆管癌において癌特異的に発現し,予後不良の因子となっていることを初めて報告した. 一方で我々は,膵癌において効率に変異を起こしているras遺伝子を抑制することで膵癌細胞を死に導くことを見いだし,アデノウイルスベクターに腫瘍特異的発現システムであるCEAプロモーターを組み込んだ遺伝子治療ベクターを構築した.これが膵癌移植ヌードマウスにおいて有意に肝転移を抑制することを報告した.
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