研究概要 |
高度心不全症例において,補助人工心臓は移植へのブリッジとして用いられるが,脳死ドナーが絶対的に不足する現状において,離脱生存を目的とした自己心の機能回復を図る必要がある.本研究では遺伝子導入系を介した心筋細胞の分子制御により,心収縮能回復,補助人工心臓からの離脱を目指した新しい治療法の開発を試みた.まず重症心不全における心筋のカテコラミン応答性低下を補正し収縮力を向上する目的で,ベータアドレナリンレセプター(βAR)遺伝子を導入するシステムを開発した.naked DNAの心筋内直接導入法により,心不全ハムスターの治療実験を行ない,その結果,有意なFSと心拍出量の増大,カテコラミン応答の増強を認めた.心拍数に変化は認めず,また多臓器への導入は認められなかったため,その安全性が示唆された.発現ベクターとしてEBVゲノムエレメントを採用することにより,マウスおよびハムスター心において導入効率,発現量が著明に増加した.一方,同様のプラスミドベクターを遺伝子銃で導入する系も試み,マウス心筋における遺伝子発現の有意な延長を確認している.さらに心筋へのnaked DNA導入系を臨床に応用するためのステップとして,イヌ心筋へのマーカー遺伝子導入を試みた.すなわち左室心筋にて投与部位に特異的かつ有意なルシフェラーゼ(Luc)の発現を確認している.心機能回復を目的とした遺伝的干渉のもうひとつの手段として,遺伝子発現制御をsiRNA投与にて試みたところ,現在までに横紋筋にて著明な成果を得ている.すなわちLuc発現ベクターと同時にLuc特異的siRNAを注入後,電気パルスを与えたところ,Lucの発現が100分の1以下に低下した.さらに内因性遺伝子の発現を抑制できることを示す目的で,GFP遺伝子トランスジェニックマウスにGFP特異的siRNAを同様に投与したところ,導入細胞に特異的にGFPの発現が消失,ないしは著明に低下していた.このように,naked DNA法,遺伝子銃,電気穿孔法等,種々の方略を試み,いずれの系においても安全,高率に心筋へのデリバリーが可能なことを示し,βAR遺伝子導入の系ではポンプ機能回復にも成功した.
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