研究概要 |
これまで,線維芽細胞が扁平上皮癌細胞のin vitroでの浸潤能を強く亢進させることを明らかにし,線維芽細胞培養上清より口腔癌細胞の遊走を促進する因子の分離を試み,熱及び還元に比較的安定な既知の細胞遊走促進因子とは異なる約50kDaの蛋白FDMFを分離した.現在までのところ,FDMFはGi蛋白共役受容体を介しチロシンキナーゼを活性化し細胞骨格系を制御して細胞の運動能を亢進させていると考えている. また線維芽細胞培養上清中には扁平上皮癌細胞のウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベーター(u-PA)とマトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)産生を亢進させる画分を含んでいた.本研究では扁平上皮癌細胞の蛋白分解活性,特にMMP-2活性に与える線維芽細胞の影響について解析した.その結果,線維芽細胞が扁平上皮癌細胞のマトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP-2)活性化因子である膜型マトリックスメタロプロテアーゼ(MT1-MMP)発現を亢進させることを見いだした.扁平上皮癌細胞は線維芽細胞によって細胞膜上に膜型マトリックスメタロプロテアーゼのMT1-MMP発現が誘導され,自らあるいは線維芽細胞をはじめとする周囲の間質細胞が産生する潜在型MMP-2を細胞膜上で活性化する.そして扁平上皮癌細胞上で活性化されたMMP-2はインテグリンαVサブユニット介して細胞膜上に結合することが明らかになった. このことから間質の線維芽細胞が扁平上皮癌細胞の運動能と蛋白分解活性,特に癌細胞膜上のMMP-2を亢進し,扁平上皮癌の浸潤・転移を促進していると考えられた.
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