研究概要 |
本研究は,頭頸部癌におけるシクロオキシゲナーゼ(COX)-2発現を免疫組織化学的ならびに分子生物学的に検索し,腫瘍増殖および悪性度におけるCOX-2の関与とCOX-2阻害剤による腫瘍増殖抑制効果を明らかにすることを目的としている.本研究において得られた成果を以下に述べる. 1.頭頸部扁平上皮癌および唾液腺癌において,いずれの癌にもCOX-2発現を認めたが,唾液腺癌で高発現する割合が高かった.扁平上皮癌では,分化度の低いものほど発現が高く,未分化癌では全てに高発現がみられた.扁平上皮癌のみならず,上皮過形成,上皮異形成症,上皮内癌においても悪性化に応じてCOX-2発現の増強を認めた. 2.扁平上皮癌におけるCOX-2発現とトポイソメラーゼIIα発現は正の相関を示し,ともに高発現している扁平上皮癌患者の予後は不良であった. 3.口腔扁平上皮癌の転移巣は原発巣に比べて有意にCOX-2発現の増加がみられた.また,原発巣,転移巣いずれにおいても,腫瘍の分化度の低下に伴い,COX-2発現は増強する傾向を示した. 4.頭頸部扁平上皮癌細胞であるKB, SCC25,唾液腺癌細胞であるHSG, HSYに,COX-1およびCOX-2阻害剤であるスリンダク,選択的COX-2阻害剤であるエトドラク,セレコキシブを作用させると,アポトーシスを介して細胞増殖は濃度依存性に抑制されたが,SCC25とHSGでより著明であった。また,セレコキシブのIC_<50>はエトドラクの1/5,スリンダクの1/10であった. 5.SCC25細胞は多量のPGE_2を産生していたが,KB, HSG, HSYではわずかであった.SCC25,HSGにPGE_2を作用させると,SCC25では増殖が促進されたが,HSGでは促進されなかった.またセレコキシブにより,PGE_2産生とCOX-2蛋白発現は効率よく抑制された. 6.細胞毒性のないあるいは軽度毒性のある濃度のセレコキシブと抗癌剤を併用してSCC25,HSGを処理した場合,アドリアマイシン,ビンクリスチン,ブレオマイシンにおいて2〜10倍の効果増強がみられた.この増強効果は,アポトーシス誘導の程度とおおむね一致していた. 7.ジメチルペンツアントラセン塗布によるハムスター頬嚢発癌実験系において,スリンダクおよびセレコキシブ経口投与により,発癌率は抑制されなかったが,発癌時期,腫瘍増殖,腫瘍死が遅延した. 以上の結果より,COX-2が頭頸部扁平上皮癌の増殖,転移,悪性度に関与すること,選択的COX-2阻害剤により腫瘍細胞増殖PGE_2産生,COX-2蛋白発現力が効率よく抑制されること,COX-2阻害剤は坑癌剤との併用によりアポトーシスを介して細胞増殖抑制効果を増強することが示された.
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