研究概要 |
白骨化したあるいは高度に腐乱した死体の個人識別を目的に、歯髄DNAを試料とし,vWAローカス(12p12-12pter)およびDXS986ローカスの塩基配列の構造多型について検討した。 vWAローカスは,歯髄DNA142例を試料とし,イントロン40の約670bpに及ぶ塩基配列のうち,上流に位置するKimptonらが報告した遺伝子領域(vWA-Kローカス)と,そこから約600bp下流に位置するPloos van Amstelらが報告した遺伝子領域(vWA-Pローカス)について検討した。 vWA-Kローカスにおいて,アリール14の塩基配列は5'-(tcta)1(tctg)1(tcta)1(tctg)4(tcta)3(tcca)1(tcta)3(tcca)(tcca)-3'であり,アリールNo.はtctaの繰り返しの数1+1+1+4+3+1+3=14で表された。ただし,3'側の(tcta)3からさらに下流へ向かって7塩基目のtがcに置換していた.一方,アリール15-20は5'-(tcta)1(tctg)4(tcta)m(tcca)(tcta)-3'であり,アリールNo.は1+4+m(m=10-15)で示された。 つぎに,vWA-Pローカスのアリールは(tgta)p(tcta)q(tcta)rで示され,アリールNo.はp+q+r(p=5-8,q=2-4,r=8-15)で表された。従って,同鎖長異型が各アリールで認められた。アリール21-23ではp=7の場合(アリール23ではp=8の場合も)にはq=4であり,かつ,3'側の(tcta)rから下流へ向かって8塩基目のcがtに置換していた。 また,歯髄DNA68例を試料とし,DXS986ローカスの構造多型について検討したところ,アリール26-37と42の計13アリールが検出された。アリールNo.はcaとtaの反復配列の総和(ta)p(ca)q〔p+q : p=11-20と26,q=13-21〕で示された。同鎖長異型はアリール27,29-31,33-35および37に確認された。 以上のことから,vWAおよびDXS986ローカスの塩基配列には同鎖長異型が存在し,より精度の高い個人識別が可能であることを明らかにした。
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