研究概要 |
人の文字認識の特性に基づいた文字品質評価法の枠組みを作成した.この評価法は,眼球運動計測など実験心理学的研究の結果とも一致し,今後の文字認識研究に有用な指標を提供できるものと考えられる.具体的には,280名に及ぶ学生が比較的自由な条件下で自分の名前を書いた,つまり見本なし手書き文字サンプルから抽出した文字を材料として,人の判定基準に準拠した悪筆度合の定量化手法を考案した.ここでは,概形特徴と詳細特徴という,人の認知システムと対応する指標を導入した.その結果,90.8%という高い精度で悪筆・良筆の判定が可能であることが示された.この手法は,活字体よりも読みやすい手書き文字の存在を客観的に示すことができるなど,その有効性が確かめられた.また,この定量化の指標に因子分析を適用することにより,いわゆる「悪筆」が,紙面の汚れ・かすれのような物理的成分と上手下手のような感性的成分そして文字形としての読み易さとから成ることが示唆された.一方,手書き文字判読時の眼球運動を計測することにより,人の文字認識の特徴をとらえ,あわせて我々の定量化の妥当性を検証した.注視点数の増加は悪筆度合の定量的指標と対応しており,我々の開発した指標の有効性が確かめられた.また,注視点移動パタンの分析から,人の文字認識には文字の外側輪郭ではなく内部のストローク密度の高い領域の情報が有効であることがわかった.現在,この定量的指標を利用して人工的な悪筆文字を生成して実験するなど,より高精度の文字認識システム開発に向け検討中である.その際,感性情報の利用など,人の認知システムに一層近づけることも考えている.
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