研究概要 |
生体内でビタミンEなどの抗酸化物質や各種抗酸化酵素は,生体膜やリポ蛋白質の酸化防御に重要な役割を果たしている.酸素濃度の低い生体中に比べ,大気下で生存しなければならない魚類などの卵はさらに可視光や紫外線の影響でより強い酸化ストレスに曝されていると考えられ,より優れた抗酸化システムを有している可能性が高い.このような認識のもとに新規抗酸化剤を検索した結果、サケなどの北洋魚の卵からa-トコフェロールのイソプレノイド側鎖の末端に二重結合が導入された新しいビタミンE誘導体,Marine-derived tocopherol(MDT)を見いだした.氷浴中で,増感剤にベンゾフェノンを用いた光酸化系を用いた.まず,MDTとa-トコフェロールの減少速度の比からその抗酸化能比(k'/k)を比較した.大豆ホスファチジルコリンのメタノール溶液中,あるいはリポソーム中ではMDTとa-トコフェロールの減少速度は同一であった(k'/k=1).しかし,コレステロールを含有するリポソーム膜中や魚油中ではMDTがa-トコフェロールよりも速やかに減少した(k'/k>1).k'/kはラジカル濃度に依存し,これが低いほど大きい値となった.さらに,コレステロールを含有するリポソーム膜中で大豆ホスファチジルコリンヒドロペルオキシド生成速度を比較したが,MDTがa-トコフェロールよりもヒドロペルオキシド生成速度を有意に抑制することが確認できた.粘性の高い反応場やラジカル濃度がMDTとa-トコフェロールの抗酸化活性に影響を及ぼすことは,これらの条件下でMDTがa-トコフェロールよりもより流動性に優れており、MDTの高い抗酸化活性をもたらしていることを示唆している.したがって,MDTは低温に伴う粘性の高い脂質の存在環境に適合するために作り出されたと考えられる.
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