研究概要 |
本基盤研究は,高齢化に伴い深刻な社会問題になりつつある神経変性疾患で傷害された神経細胞を修復可能にする薬物の探索と創製を目指して実施された. 1.第一の目的である神経細胞死抑制物質の探索研究に必要な無血清培地下での2種類の神経培養系が確立できた.それらの神経培養系で様々な天然物を評価した結果,新たに神経突起伸展促進活性物質9種類と神経細胞保護作用物質6種類が発見され,それらに関する化学的,薬理学的研究が始まった.特に,アミロイドβタンパクが誘発する神経細胞死保護作用物質が見出され,今後の作用機構研究が期待される. 2.また,すでに見出した神経突起伸展物質ホーノキオール,マスチゴフォレン,プラジオチンAとアメリカノールA類の全合成は,鍵となるビアリール炭素-炭素結合形成にパラジウム触媒と酉洋ワラビ酸化酵素を活用することで達成でき,動物実験に供試できる量が確保できた.また,メリラクトンAの合成は,連続Stille-Heck反応を適用することでAB環構築まで進んでいる. 3.一方,第二の目的であるホーノキオールの神経栄養因子作用機構の解析研究は,神経細胞の成長・生存に関与するシグナル伝達系(TRK, MAPK, PI3)とPLC-IP3活性化による細胞内カルシュウムイオン濃度変化が関与していることを,明らかした.その結果に基づき,ビアリール構造単位とする神経変性修復薬物の創製に取り組んでいる.さらに,老化促進マウス(SAM)に対するマグノロールの2ヶ月間の投与実験に於いて,海馬領域CA1での神経線維脱落変性を抑制することが示された.本研究で見出された活性天然物から神経変性修復薬物の創製と神経変性モデル動物での有効性の証明,さらに,活性化合物が作用する神経細胞内標的分子の単離同定等,今後の研究課題として取り組む計画である.
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