研究概要 |
実験動物としては中枢無傷ネコおよび直立足歩行運動を学習したニホンサルを用い,次の研究成果を得た。 (1)中枢無傷ネコの小脳歩行誘発野に微小電極を刺入・固定し,手術操作などからネコが十分に回復したことを確認した後,この部位を矩形波パルスを用いて連続刺激した。この部を200Hzでの刺激頻度で刺激すると,ネコは四足歩行運動を開始した。50μAから150μAに刺激強度をステップ状に増強すると,歩行運動が誘発されるまでの潜時は次第に短縮した。小脳歩行誘発野を微小破壊すると,ネコは注意深い歩行運動を開始したが,左右前・後肢の協調ができず,歩行方向を変えようとする際にしばしば転倒した。これらの成績は小脳歩行誘発野を通過する多重の上行性および下行性室頂核遠心路が,頭部・体幹・左右前後肢など数多くの運動分節の協調活動,すなわち歩行運動の発現・制御に重要な役割を果たしていることを示している。 (2)トレッドミル上での直立二足歩行運動を学習したニホンサルを用いて,直寸足歩行,四足歩行のそれぞれの運動課題に対してtask-specificにニューロン活動を増強する脳部位をPET法を用いて同定した。この結果,小脳,運動野,視覚野など複数領域においてニューロン活動が増強することが明かとなった。直立足歩行時には運動野と視覚野が,そして四足歩行時には小脳がより有意にニューロ活動を増強していることも観察できた。 これらの研究成果から,小脳室頂核が運動分節の多重並列制御中枢として機能し歩行運動を発動するための中枢として機能しているばかりでなく,姿勢と歩行運動の統合中枢としても機能しているという新しい作業仮説を提出することができた。
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