研究概要 |
培養した内皮細胞にせん断応力を負荷することによって,生きたままの細胞内のアクチンフィラメントの動的挙動を詳細に観察することができた.細胞が静置培養時に多角形状をしている際に,細胞周囲に多く存在していた細かいアクチンフィラメントの束は,流れ負荷によて再配列をし,新たな構造を形成した.このような現象は特に細胞の上流側と下流側で顕著であった.また,アクチンフィラメントの重合を阻害するサイトカラシンDを投与するとアクチンフィラメントが収縮する現象を詳細に観察することができた.これにより,アクチンフィラメントがゴム状の強い粘弾性を有していることが推測された.アクチンフィラメントの動きにはその足場となるインテグリンが強く関与している可能性があり,インテグリンとアクチンの接着に関与している蛋白であるFAKの一部のFAT(focal adhesion targetting)にGFPを接合させてその力学応答も観察し,アクチンの配列に先実験的には培養内皮細胞を用いて流れ負荷実験を行い,かつその後の内皮細胞形状と力学特性を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて計測した.AFMの計測で得られた形状をもとにして,フローチャンパ内の流れの状態および流れが内皮細胞に及ぼす力,さらには細胞内に発生する応力分布を有限要素法により計算した.内皮細胞の内部のモデルとしては,アクチンフィラメントの細胞骨格構造をビームで模擬したもの,あるいは均質材料としてモデル化したものを用い,流れと構造の連成解析を行って,3次元の変形状態や応力状態を求めた.細胞の大きな変形までも考慮した解析が必要であることが判明したので,構造要素を変形の度に再構築するアルゴリズムを導入して計算を実行し,細胞骨格の分布が内部応力に依存していると思われる結果を得た.
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