研究概要 |
超高齢化社会における関節症患者の急増を防ぐために,関節の潤滑機構と変性・修復機構の関連を解明することを試みた.とくに,多モード適応潤滑機構の視点にたって関節摩擦面の修復過程における自己組織化機構の総合的な解明をめざし,損傷進行・修復を左右する吸着膜・ゲル膜形成における自己組織化現象や軟骨組織の圧縮ひずみ挙動に着目して,原子間力顕微鏡や新規購入の走査型レーザ顕微鏡を駆使して観察研究を行った.代謝挙動を支配する軟骨細胞が力学的環境に対していかに応答するかを探求するために,軟骨細胞の存在を考慮した軟骨モデルを構築し,3次元有限要素応力解析を実施した. 生体軟骨の摩擦試験では,リン脂質や蛋白成分(とくにγ-グロブリン)から構成される吸着膜とプロテオグリカンから構成される表面層ゲル膜が低摩擦・低摩耗機能を有することに関して,AFM観察から構造との関連を評価した.混合吸着膜やゲル膜形成では,自己組織化が重要な役割を演じるものと推測された. 軟骨/人工軟骨材料(PVAハイドロゲル)の往復動試験により関節液構成成分の有効性を探求した.とくにヒアルロン酸と蛋白成分の寄与に着目して評価したところ,両成分の共存が最も良好な耐摩耗性を示した.成分別に評価すると,γグロブリンは軟骨の損傷防止に有効で,増粘性物質のヒアルロン酸はPVAハイドロゲルの損傷防止に有効であった.混合吸着膜の有効性や自己組織化と潤滑性との関連を総合的に考察した. 軟骨細胞の力学的応答の変化を調べる前段階として,共焦点レーザ走査型顕微鏡蛍光計測により軟骨内部と表層近傍の軟骨細胞の3次元画像再構成を試み,表層・中間層・深層における細胞形態や分布の相違を評価した.また,有限要素解析により軟骨細胞モデルに対する力学環境の影響を明らかにするとともに,ひずみ・応力応答と細胞の存在の関係を調べ,透過率や弾性率を考慮する必要性を示した.とくに,軟骨の一定ひずみ圧縮試験では,負荷直後に局所的に大きいひずみが発生し軟骨細胞への刺激を強めることが示唆された.
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