研究概要 |
本研究では、滴定カロリメトリーにより研究するための、新たな測定セルの制作を行い、その性能試験を行った。有機金属錯体の場合、合成される錯体量が少ないため、少量で測定できるセルを必要とする。いくつかの方法を検討したが、最終的に、サーミスターを用いる内部センシング方式で少量化した。 反応系として一価d^<10>Ag^+イオンのEPh_3(E=P, As, Sb, Ph=C_6H_5)錯体の生成反応をアセトニトリル(AN)中で研究した。ANは強いπ受容体であるがσ供与性は弱い。安定度はPPh_3>AsPh_3>SbPh_3の順序で低下した。PPh_3はピリジン(Py)やジメチルスルホキシド(DMSO)中では3つまで配位するが、アセトニトリル中では4つまで配位することがわかり、それらの熱力学的パラメータが決定された。この結果をDMSO, Py中の結果と比較した。DMSOは強いσ供与体であるπ受容性はない。一方、Pyはπ受容性もσ供与性も強い。このため、Ag^+イオンはANやPy中でπ結合により特に安定な溶媒和錯体を形成する。測定された反応エンタルピーとAg^+イオン及びPPh_3の溶媒間移行のエンタルピーから、[Ag(PPh_3)]^+,[Ag(PPh_3)_2]^+及び[Ag(PPh_3)_3]^+錯体の溶媒間移行エンタルピーを見積もった。移行エンタルピーから溶媒をDMSOからAN, Pyに置き換えたときの金属イオンと溶媒分子の結合エネルギーの変化がわかる。その結果、Ag^+と溶媒分子のπ結合性はPPh_3の結合数が増加するに従って急激に弱められていくことが示された。また、ピリジンの配位はPPh_3の立体効果によっても弱められることがわかった。AN中で[Ag(PPh_3)_4]^+錯体が生成したのは、ANのπ結合性が無くなり、弱いσ供与性のため、[Ag(PPh_3)_3]^+錯体中のAg^+-AN結合が著しく弱くなったためであると結論出来る。
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