研究概要 |
本研究により新たに得られた知見は次の通りである. 1.湾曲時の振動状態の解析 湾曲時の振動状態について,振動伝達マトリクス法による理論解析と,振動測定実験により研究した.その結果,縦振動成分については,湾曲時でも真直状態と同じように伝達されることが分かった.また,横振動成分については,湾曲に伴い増加するものの,増加率は小さいことが分かった.以上より,湾曲時においても,メス先端では必要な振動が得られることが明らかとなった. 2.超音波メスの能動湾曲化 湾曲形状の超弾性合金ロッドを用いて能動湾曲化を実現する方法を考案した.超弾性合金ロッドを直線形状のPEEKパイプに通し,ピークパイプをスライドすることにより,超弾性合金ロッドを湾曲伸展させる方法である.PEEKパイプのスライドは,手元に取り付けた小型DCモータにより行う.この方法による超音波メスを試作し,メス先端での振動状態を評価すると共に,鶏肉を用いた実験により,湾曲時でも切開,止血が可能であることを示した. 3.超音波メスの接触状態の検出 超音波メス先端が組織とどのような接触状態にあるかを術者に提示することは,術者の操作性改善や自動化の観点から,重要な課題である.しかし,超音波振動下でメス先端に歪ゲージなどのセンサを取り付けることは,困難である.そこで,振動子の電気インピーダンスを計測することにより,メス先端での接触状態を検出する方法を考案した.メス先端の接触状態が変化すれば,メスの機械インピーダンスが変化し,これにより振動子の電気インピーダンスが変化するというものである.この方法によれば,接触の有無を検出できることを実験により確認すると共に,押し付け圧により電気インピーダンスが変化することも確認できた. 4.切開・止血操作の自動化 上記2つの技術を統合することにより,内視鏡下手術における切開・止血操作の自動化を実現するシステムの構築を目指した.医師が指し示した切開部位を,立体視により3次元座標として取り込み,目標の切開軌道に従って,ロボットアームにより超音波メス先端を制御するという方法である.ステレオカメラシステム・GUIによるヒューマンインターフェース,ロボットアームを制御系を構築することができたが,それらの統合化による切開・止血操作の自動化には至らなかった. 5.超音波メスによる発熱・神経損傷の問題点 内視鏡下手術は、腹部手術はもとより、乳腺切除、甲状腺切除にも応用されるようになり,きわめて狭い空間での操作を必要となってきた.これに伴い,超音波駆動メスの発生する熱が神経障害を引き起こす可能性が指摘され,実験により,超音波メスの発生する熱の測定を行った.その結果,3mm以上メスを神経に近づけると神経損傷にいたることが裏付けられた.これにより,メスの能動湾曲化による操作性の改善の必要性が明確となった.
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