研究概要 |
光の回折限界以下の空間領域で光学情報を引き出すことを目的とした走査型近接場光学顕微鏡(SNOM)の開発とその応用が盛んである。汎用性が高く高感度という特徴をもつ光熱変換分光法をSNOMに適用することにより,SNOM検出の適用分子の拡大が期待される。本研究では、近接場励起による光熱変換信号を検出する近接場光熱変換顕微鏡の開発を目的とした。本システムは倒立型光学顕微鏡をベースに試作し,開口径100nmの近接場ファイバープローブに、励起光(He-Cdレーザー)とプローブ光(He-Neレーザー)を同軸に導入した。Dither制御によりファイバープローブ先端を試料表面から10nm程の距離に近づけ、プローブ先端から発生する励起光の近接場光で試料分子を励起する。光熱変換分光法では、光励起後の無輻射緩和による熱発生を、周囲の物質の屈折率変化として検出することから,光吸収後に発生する屈折率変化の検出がポイントとなる。ここでは100nmの開口径においても伝播光は完全には取り除くことができないため,プローブ光の透過光成分を用いることとし,その偏向による中心部の光量変化を観測する。光熱信号は励起光をチョッパーで変調し,プローブ光光量はAPDで検出し,ロックインアンプにより同期測定した。ガラス上のAu薄膜試料において、励起光のみ・プローブ光のみでは信号は得られず、両方導入した際にのみ信号が得られたことから光熱変換信号が検出されていることを確認した。次に,光ファイバープローブをXY方向に走査して得た光熱変換像では,金薄膜部とガラス基板の境界面が明瞭に認められ,境界での測定から空間分解能は約1μmと見積もられた。この結果は,近接場光学顕微鏡下において世界で初めて光熱変換像の取得に成功したものである。
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