研究概要 |
1.スナネズミ一過性前脳虚血モデルでは,虚血負荷をうけた大脳皮質,海馬で虚血1日後にアルブミンの漏出が始まり,2日後にやや減少,4日後をピークとし,30日後にほぼ漏出が消失する2峰性のパタンを示した。虚血後に長時間の脳低温処置(32℃,24時間)を施すとニューロン死はおこらず,アルブミンの漏出が脳全領域で顕著に減少し,低温処置に強い血液脳関門の破綻抑制作用が認められた。32℃の低温下で前脳虚血を負荷すると,血液脳関門の機能は保たれ,虚血ニューロン死が発生しないが,別のスナネズミより採取した血清を再灌流時に脳室内に持続投与すると,海馬CA1領域のニューロン死発生率が上昇した。血清アルブミンを持たないNARラットに1時間の中大脳動脈閉塞を行うと,24時間後の梗塞体積は正常ラット群に比較して縮小傾向を示した。血液脳関門の破綻によるアルブミンの脳実質内への漏出が虚血ニューロン死発生に大きく関与している可能性が示唆された。 2.培養ミクログリアを用いたPMA刺激による活性酸素の産生反応,LPS刺激によるTNF-αやNOの酸性反応が,血清存在下で増強された。ミクログリアの活性酸素産生能の増強因子は,最小単位がアルブミンのテトラフラグメントであるLHTHであり,TNF-αやNOの産生能の増強因子は,炎症急性期血清に存在するLPS結合蛋白(LPB)である可能性が示唆された。また,アデノシンのアナログである2Cl-adenosineを培養ミクログリアに添加すると,アポトーシスを誘導することも判明した。ミクログリアの活性化が虚血ニューロン死の原因の一つであるならば,LHTHやLPBの拮抗薬の開発が治療のターゲットになりうる可能性が示唆された。 3.緑茶の旨味成分であるテアニンと短時間低温処置あるいは軽微低温処置の併用療法によるニューロン保護効果があるかどうか検証した。虚血30日後に短時間低温処置+テアニン投与群,軽微低温処置+テアニン投与群の残存神経細胞数は,それぞれ67%(48%増加),72%(22%増加)で低温処置とテアニン併用により有意なユーロン保護効果が得られた。テアニンも新規脳保護薬と成りうる可能性が示唆された。
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