研究概要 |
本研究の主要な成果は,以下の3点である。 (1)フランスの35時間労働法は単なるワークシェアリング法や労働時間短縮法ではなく,フランスの労働史および労使関係史におけるターニング・ポイントとなる画期的な法である。それは第1に,企業が労働時間編成および雇用調整に関するフレキシビリティーを獲得したことであり,第2に,35時間労働制への移行のための企業内労使間協定は従業員の多数派を代表する労働組合の署名を必要とするという労使関係における多数派原則を確立したことである。 (2)自動車メーカーにおける35時間労働制の実施に関して以下の点を指摘できる。第1に,35時間労働のための労使間交渉を通じて労使関係が改善され,安定化した。第2に,全ての企業が労働時間の年間管理を行ない,年度末に確定する残業労働時間の多くは集団的および個人的な休暇取得に使われ,賃金はもはや実際の労働時間数を反映しない。第3に,労働時間の年間管理化によっていずれの企業もフレキシブルな労働時間編成と雇用調整を行なっている。したがって,労働時間の短縮による労働コストの上昇は,1日24時間,週7日のフル操業による量産効果によって吸収されている。 (3)トヨタ(TMMF)もまた,ルノーやプジョーと類似の労使間協定を結び,労働時間編成のフレキシビリティーを享受している。つまり,労使関係・労働条件に関して,TMMFはフランス企業が行うものをTMMも行えるようにし,TMMFはフランスの労働環境に適応し,それを活用している。とはいえ,TMMFはトヨタ生産システムの適用に関しては,ジャスト・イン・タイム生産や自働化は導入されているが,標準作業の徹底や改善活動は導入されたばかりであり,トヨタ生産システムの適用は,いまだ部分的であり,今後の人的資源の育成にかかっている。
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