研究概要 |
今回の研究は,東方・ギリシア教父の伝統の中から,とくに後期の集大成者,証聖者マクシモス(580頃-662)を主たる対象とし,その主著『アンビグア(難問集)』や『神学と受肉の摂理について』,『愛について』などの原典を詳細に検討した。その成果は,報告書の『人間と神化の問題-証聖者マクシモスにおける自然・本性のダイナミズムを巡って-』に結実した。 そこで得られた知見は,この有限な可変的生活のあらゆる存在者(自然・本性,ビュシス)が,究極目的たる存在(永遠に在ること)に開かれた動きとしてあること,そしてその動きの勝義の成立に,人間的自由が不可欠の媒介となっていることである。そしていわゆる徳,アレテーはマクシモスの文脈にあっては,存在の現成の姿という意味を担うことになる。そうした動的な構造にあっては無限性へと披かれゆく意志やそれを宿す広義の身体性が重要な意味を有し,また,アレテー成立の可能根拠として,いわゆる受肉の現在とも呼ぶべきことがらが,人間探求の普遍的な問題として問い直されることになる。こうした問題は人間を紐帯として全自然・本性がその完成たる神化へと開かれているという視点を含むのである。
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