研究概要 |
本研究の目的は,情動的言語刺激(陽性情動語,陰性情動語,中性語)を視野分割提示法によって提示し,それらの視野優位性を知覚段階と記憶段階で比較することにより,言語刺激における情動的意味処理の大脳半球機能差について検討するところにあった。研究の結果は,以下のとおりである。 陽性・陰性情動語処理の大脳半球機能差について検討した結果,陽性情動語と中性語の処理が左視野より右視野でよかったのに対し,陰性情動語では視野差がみられないことが示された。これらの結果は,言語刺激の情動的意味処理は,一般に左半球優位で行われるが,陰性情動処理に関しては右半球でもそれが可能であるを示唆している。 陰性・陽性情動語の記憶と知覚における大脳半球機能差を左右視野連続提示法によって検討した結果,中性語の記憶は左視野より右視野がよいが,陽性語と陰性語の記憶では視野差のないこと,またこれらの語の知覚はいずれも左視野より右視野でよいことが示された。これらの結果は,情動語の知覚には左半球がより優位に関与しているが,情動語の記憶には右半球の関与が強まることを示唆している。 情動語ストループ干渉について検討した結果,陽性語および陰性語が中性語よりストループ干渉率が高いこと,またこれらの語をストループ刺激として視野分割提示したときは,ストループ干渉率に視野差がないが,非ストループ刺激として提示したときは,左視野より右視野の処理のよいことが示された。これらの結果は,情動語のストループ干渉は左半球でより強く引き起こされている可能性を示唆している。 以上のことから,言語刺激の情動的意味処理の知覚と記憶における大脳半球機能は,知覚段階では原則として左半球優位であるが,陰性情動処理は右半球でも可能なこと,そして記憶段階では半球差のないことから,情動的意味処理に関して相対的に右半球の関与が強まることが示された。
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