研究概要 |
急性・一過性のストレス負荷が免疫系機能を変動させることが知られており,これは生体へのチャンレンジに対する防御的反応であると考えられてきた.一方,心理学領域では従来より,同一のストレス負荷であっても,それが主体の側でコントロール不可能な場合には,そのインパクトはより大になると考えられてきた.本研究は,ヒト被験者に実験的に急性ストレスを負荷し,その前後での免疫・内分泌系物質を定量することにより,急性ストレスのコントロール可能性が免疫・内分泌系反応を修飾するか否かを検討した. 1 平成12年度には,キー押しによる嫌悪刺激(騒音)回避学習を課題とした実験を行った.コントロール不能性の操作により,事後の学習が阻害されるという典型的な学習性無力感現象が生起した.このとき,急性ストレスにより唾液中の分泌型免疫グロブリンA(s-IgA)量は一過性に増加したが,増加の度合いはコントロール不能な場合に,コントロール可能な場合に比較して顕著に大きかった.内分泌系指標である唾液中コルチゾールは変動せず,s-IgAが自律神経系を介するものである可能性が示唆された. 2 平成13年度には,時間圧を伴う暗算を課題とした実験を行なった.この課題でもs-IgA量は一過性に増加したが,やはり増加の度合いはコントロール不能な場合に顕著に大きかった. いずれの実験においても,被験者自身のコントロール可能性の評定は不正確なものであったことに注目すべきである.すなわち,末梢における免疫系は,中枢におけるコントロール可能性の自動的な知覚により,なかば自動的に制御されていることが示唆された.今後,そうした制御メカニズムをより詳細に検討する必要があろう.
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