研究概要 |
本研究は、乳児期における自己移動経験、すなわちはいはいによる移動経験が感情や自己受容感覚に及ぼす影響を検討しようとするものである。すなわち,ムービングルームを利用した周辺視の動きに対応する自己移動経験に伴う自己受容感覚の発現を確認するとともに、感情の発現の様相を心拍などの末梢神経系の測度と表情や行動指標を用いて明らかにすることである。また、海外共同研究者であるAnderson助教授が中心となって開発した乳児用車により(Anderson, Campos, Barbu-Roth, & Uchiyama,1999)、乳児に自己移動の経験を与え、視覚経験を豊富にする訓練の効果を検討することが可能となった。本研究では、これらの視点から検討を実施した。 その結果、まず、自己受容感覚については、8ヶ月児、あるいは9ヶ月児において、自己移動経験を有する乳児は、有しない乳児に比べ、姿勢の動きと側壁の動きとの相互相関が高く、自己受容感覚が高いことが確認された。第2点は、生理学的指標を使用した感情出現に関する検討であった。心拍数を測度として、側壁移動時の変化を検討したところ、自己移動経験を有する乳児で側壁移動に伴う心拍数の増加がみられ、姿勢補償時に恐れの感情が伴っていることが推測された。第3点の表情指標を使用した検討でも、側壁移動に伴う姿勢補償時に、心拍指標と同様、恐れの感情表出が認められた。第4点は、乳児用車を使用した自己移動による視覚経験の豊富化であった。まず、6ヶ月児、あるいは7ヶ月児を対象とした3週間の訓練の結果、乳児は乳児用車による自己移動方法を修得することが確認された。また、訓練前後で姿勢補償に促進効果が認められるパイロットデータが得られた。これらの研究は、新たな視点による取り組みであり、今後、さらに実験条件を厳密にしながら検討される必要がある。
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