研究概要 |
本研究は,個人の自由や自己決定権と社会道徳的要素の両方が含まれる場面での判断と意志決定を個人道徳と呼び,わが国の幼児から大学生を対象に,個人道徳場面における道徳的義務感と自己決定権意識がどのように発達するかを検討した。また,親自身の生き方,親の養育観や態度を調査し,子どもの生き方の発達環境要因を検討した。これらの分析を通して,子どもが自己を社会的世界にどのように方向づけるのか,つまり個人の生き方がどのように形成されるのかを考察した。 社会道徳的判断からみた個人道徳の発達について3つの調査から明らかにした。研究1:小中学生の社会道徳的判断,研究2:大学生の社会道徳的判断,研究3:大学生の社会道徳的判断と社会道徳的指向性から,人間関係や自分の外見・身体の管理の場面で,自己決定感が発達することが明らかになった。 家族関係における個人道徳の発達として,研究4:小中学生の家族関係における自己犠牲と自己優先,研究5:大学生の家族関係における自己犠牲と自己優先,研究6:大学生における家族関係での個人道徳と社会道徳的判断との関連,研究7:家族関係における自己犠牲と自己優先の生涯発達の研究から明らかにした。家族場面での自己決定感は女性の方が高く,自己犠牲の義務感は男性の方が高いことが明らかになった。女性は自己犠牲の義務を果たした満足感を男性より小さく見積もることが示された。 子どもの個人道徳の発達的環境として,研究8:夫婦葛藤場面における夫と妻の自己決定,研究9:夫婦関係の概念と養育観およびしつけの態度との関連,研究10:母親の夫婦関係の概念と幼児の社会道徳的判断との関連,研究11:大学生の親子葛藤と個人道徳の4つの研究から検討した。 最後に,11の個人道徳の発達に関する研究成果をまとめるとともに,善く生きることと個人道徳の発達との関連,今後の課題と方向について全体的考察を行った。
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