研究概要 |
本研究では実行機能の問題を復帰抑制の現象から検討した.ここでいう復帰抑制とは場所弁別課題において,先行して刺激が提示された側に続いて刺激が提示されたとき,反応潜時が長くなる現象を指す.実験1-2の対象は保育園の4歳児20名と5歳児24名の計44名であった.実験方法として,パソコンのディスプレイに提示される刺激に対応して,左右のスイッチを押し分ける課題を用い,刺激の提示から反応までの反応潜時を計測した.実験の結果,主として,1.意図的な手の運動操作課題で,4歳児の段階から復帰抑制の現象が確認できたこと.2.その復帰抑制の現象は反応の困難度の影響をうけ,反応の困難度が増加するほど強く機能することの2点が確認された.実験3-4では,場所弁別課題を,大学生(19歳-21歳)28名を対象に行った.実験3は,刺激と反応の適合性を変えた条件下での復帰抑制の変化をみた,実験の結果,不適合条件で復帰抑制が強く機能することがわかった.実験4は同様の実験を二重課題条件で行った.その結果,不適合条件で,かつ二重課題条件で復帰抑制が強く機能することがわかった.実験5では高齢者12名(66歳から81歳)を対象に実験を行った.その結果,高齢者でも復帰抑制が確認でき,さらに大学生よりも強く機能することが確認された.今回の研究結果は,行動調節機能の形成過程のかなり初期から,復帰抑制の現象が機能し,その機能は高齢者においても維持されやすいこと.さらに,自己調節系としての人間の発達にとって,潜在的なプロセスの重要性を示唆しているものと思われた.
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