研究概要 |
20世紀半ば以降の障害児教育・福祉思想は,北欧に生まれ北米で発展したノーマライゼーション(normalization)の原理によって新たな展開をしてきた。本研究では,ノーマライゼーションの原理の展開と今後の課題を3つの思想、すなわちノーマライゼーションの原理から、QOL(Quality of Life)の原理、共生の原理に至る必然的な展開として考察した。ノーマライゼーションの原理は現在、世界的に普遍的原理と認識されているが、この原理は必ずしも共通の定義がなされているとはいえない。それは論者によってノーマライゼーションの原理の意味内容、強調点が異なるからである。そこでノーマライゼーションの原理の代表的な定義の比較検討を行い、その共通点と差異点を明確化し、批判的な検討を加えた。さらに、ノーマライゼーションの原理に対する批判がQOLの原理を要請せざるを得なくなる構造を示し,なぜQOLがノーマライゼーションの原理の批判的原理として注目されるようになったかを論証した。その一方で,QOLの原理も決して万能な原理ではなく、ある限界の存在が指摘された。特に、我が国ではQOLの原理の発展として「共生」の原理が注目されてきた。その原理への展開の必然性について検討された。 本研究では欧米で普遍的原理として威力を発揮するノーマライゼーションの原理とQOLの原理との比較にたって,共生の原理の意義を検討し,そのひとつの成果として,我が国の文化的伝統を考慮した障害児教育・福祉思想として「共生」の思想を定式化できたことである。ノーマライゼーションの原理から「共生」の思想への転換こそ、障害児教育・福祉思想のパラダイムの転換を迫るものと考えることができる。
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