研究概要 |
本報告書は,ムガル帝国首都デリーの建設計画をめぐる諸論考を整理し,従来の研究の不備を指摘した。17世紀前半の首都建設にいたる歴史的動態を考察することにより,デリー・サルタナット時代以来の北インドの大都市,デリーの実体を明らかにすることができる。 北インドのムスリム国家において,デリー,アーグラ,ラーホールなどが大都市として発展した。新首都デリーの建設は,近世,ムガル帝国の安定期である,シャー・ジャハーン時代に本格化する。ムガル帝国の首都は,中世国家の国王居住の単なる城砦をはるかにこえた,近代はじめの大都市の様相を呈している。 デリーに関する従来の多くのヨーロッパ人研究者による都市史研究は,北インドの歴史的つながりへの視点を欠いており,北インドのムスリム都市を単なる王城とその付属物から成る集合体としてしか考察しない。本報告書では,第一にこうした従来のイデオロギー的考察を批判して,新しい視点からの都市研究を提唱した。そのうえで,デリーの歴史的実体を明らかにするために,当時の都市民の居住状況を主要な考察の対象とした。 歴史的デリーの都市民は,単に,ムスリムの王侯・貴族のみから成っていたわけではないことを明らかにし,ヒンドゥー大商人などが活動する,都市民の居住区としてのマハッラの動態を解明することにつとめた。今後は,現地デリーの文書館で当時の都市の状況をしめる資料の発掘をおこない,都市史研究を深めていくつもりである。
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