研究概要 |
本研究では『マージェリー・ケンプの書』の中心であるキリストの生誕、受難、霊的婚姻の黙想にスウェーデンの聖ブリジットの『啓示』が与えた影響を論考した。キリストの生誕、受難に関して、両者は『キリストの生涯に関する黙想録(Meditationes vitae Christi)』の影響を強く受けている。特に、マージェリーではブリジットの『啓示』を通してMeditationesが受容されているため、本研究では『啓示』のラテン語写本の初版Indices of the 1492 Ghotan editionと比較しThe Book of Margery Kempe,中英語写本Liber Celestis,そしてMeditationesの研究を行った。霊的婚姻のテーマをめぐっては、それが最も顕著に現れているのは、エルサレム巡礼とそれに続くローマでの神秘の結婚、そしてローマ滞在中の出来事に見られるマージェリーの変化をブリジットとの類似性において考察した。 さらに、本研究はMargeryの霊的指導者として30年以上に亘り彼女を支えたカルメル会の神学博士アラン・オヴ・リン(Alan of Lynn)に注目した。John Baleの調査に始まり、アランはLynn for the Revelations, The Oxford Lincoln College MS Lat69/75を編纂したとされていた。そこで、ブリジットの著作と霊性がマージェリーに与えた影響とアランのインデックスの関係を調査した。さらに、それがアランの所属するカルメル会の観想的神秘主義とマリア崇敬とブリジットの霊的婚姻を考察しマージェリーの神秘霊性を涵養した土壌を研究した。 しかし、Liber Celestis of St Bridget of Sweden (EETS 291,1987)の校訂を行った聖ブリジット研究の碩学Roger Ellis教授と行った調査と研究で、MS Lat69とMS Lat75に類似性は認められるが、別個の製作者の手によるIndexと考察された。これらの実証的研究により、聖ブリジットの著作や霊性が15世紀前半のイギリスの学僧や在俗信徒に伝播する過程が解明されていっている。今後はMS Lat69とMS Lat75の相異をさらに検証し、アラン・オヴ・リツと写本制作の関係を明らかにした上で、マージェリーとブリジットの著作と霊性の関係を検証、考察する必要がある。
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