研究概要 |
本研究は通時的および共時的音変化への著者の関心に基づき、現代語にみられる社会言語学的変異(variation)を変化(change)の前段階として位置づけ、語アクセントという超分節音的特徴について、これらが変化するとき、それはどのようなメカニズムで起こるのかを、音変化の原理を念頭に置きながら考察したものである。現代イギリス英語で観察される強勢変異形について、単に現象の指摘にとどまらず、文脈や単語の使用頻度を知ることのできるデータベースを利用することによって強勢変異形の出現理由を解明することを目指した。 本研究では、現代イギリス英語において観察される強勢変異形の出現は文脈に依存して起こり、リズムといった音韻的制約だけでなく統語構造にも影響を受けることを明らかにした。ウェルズの発音辞典に記載されている強勢位置に関する調査結果は、該当する単語を文末において考察するようインフォーマントに要請したものである。これに対し、本研究では、強勢を考察する際の典型的な位置である「文の最後の内容語」以外にも単語が現れる例を、現代英語のデータベースから使用頻度も考慮した上で抜き出し、各位置での強勢についてイギリス英語の母語話者20名を被験者とする実験を行い、強勢変異形の存在が指摘されている形容詞に関して個人内変異および個人間変異を調べた。その結果、強勢変異形の出現は音韻的要因だけに左右されず、形容詞を含む名詞句の複雑性と構造が変異形出現の要因であり,とりわけ、右枝分かれ構造をもつ名詞句は変異の引き金となることを実証した。
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