研究概要 |
本研究の目的は、フィンランド語において文法機能を表示するために用いられる格が、実際にどのように文法機能を表示しているかを、言語コーパスを利用するなどして実証的に明らかにし、また、フィンランド語の文法機能とそれを表示する格に関わる現象を統一的に説明することができる理諭的な枠組を提示することにある。 フィンランド語は格の数が多いことで知られるが、ここで問題になるのは、主格、属格、分格の3つの格である。これらの格は、基本的には主格が主語を表示し、属格と分格が目的語を表示するのであるが、主格が目的語を表すことも属格や分格が主語を表すこともあり、文法機能とそれを表示する格は単純な対応関係にはなっていない。研究の結果、確かに、フィンランド語における文法機能の格表示は他の多くの言語とは異なっているが、しかし他の言語と全く異なっているわけではないこと、したがって、文法機能の表示に関わる従来の理論的な枠組も、少し手直しをすればフィンランド語の事例が取り扱えることが明らかになった。この現象を説明する理論的な枠組はいろいろ考え得るが、例えば、Van ValinらのRole & Reference Grammarで言うMacroroleを考えると、確かに、フィンランド語の場合、MacroroleのうちActorが主格で表示され、Undergoerが対格で表示されると単純に言うことはできない。しかし、Actor, UndergoerというMacroroleがフィンランド語文法に全く無用というわけでもない。報告書巻頭の論文「フィンランド語における文法機能の格表示」では、Actor, Undergoerを生かしつつ、フィンランド語の格表示を統一的かつ適切に説明する方法について論じた。また、報告書には、研究代表者がこれまで本研究課題に関連して研究し発表してきた成果を、本研究以前にまでさかのぼって、参考論文として掲載した。
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