研究概要 |
本研究では,(1)遺伝子診断・検査,(2)遺伝子解析研究,(3)遺伝相談をめぐる倫理的・法的諸問題を,アメリカ合衆国での対応と,医学研究の倫理的・法的諸問題についての近時のわが国の動きを踏まえて検討した。 (1)に関しては,遺伝情報の個別性,予測性,不変性,家系内共有性といった特質を踏まえ,遺伝子診断・検査から得られる医学的,心理・社会的,生殖的,研究的利益に照らして,インフォームド・コンセントの要件,守秘儀務,遺伝情報の血縁者への開示の可否,について検討した。また,遺伝情報と生命・健康保険の問題に関わるアメリカの法律を調べた。 (2)に関しては,厚生省の「遺伝子解析研究に付随する倫理問題等に対応するための指針」,及び文部科学省・経済産業省・厚生労働省の「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」などの策定に関与したこともあり,それらにおける個人情報保護,遺伝情報の開示,既存試料の研究利用などの問題に焦点を定めて遺伝子研究のあるべき姿を研究した。その関係で,個人識別情報(identifier)の除去によって匿名化ができる程度は,識別情報の特定度だけでなく,資料取扱者が持つ個人情報の量や精度,情報処理能力によっても上下することを指摘するとともに,今後,ゲノムと病態との相関研究をする際により詳細な提供者情報が必要になることに照らして,個人情報保護のための方法に一層の工夫が必要なことを強調した。 (3)に関しては,アメリカにおけるwrongful birth訴訟等において特段の変化はなかった。Wrongful life訴訟肯定州も,3州のままである。Wrongful birth訴訟を認める理由として救済の必要性があげられるが,新たな医学の可能性が過失が犯される新たな状況を生み出し,それが,裁判所で救済を認めることの社会的含意の十分な検討がないまま,新たな訴訟原因の誕生を招いていることが痛感された。
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