本研究は、近世日本(江戸時代)における司法と行政のあり方、法実務の特徴を明らかにしようとするものである。近世日本においては、司法においても行政においても、上位機関、上位権力へ伺いその指令を仰ぐということが日常的に行われていた。裁判(法の適用)においては、判決について上位機関に伺い、その指令にもとづき判決を申し渡すという、あたかも行政機関が行う営みのごとき営為がなされていた。このような司法を「伺・指令型司法」と呼ぶことができる。本研究では、この「伺・指令型司法」のもとで判例の統一が厳しく追及されたこと、下級裁判機関が上級機関の過去の指令たる「先例」に違背することが出きず、それゆえこの「伺・指令型司法」は保守的な性格をもたざるをえなかったこと、を指摘した。近世日本の司法が行政的司法、「統一的」司法という色彩を強く伴った背景について、本研究では、司法の行政からの未分離、下級裁判官の資質の問題、法源の秘匿の3点を指摘した。なお、行政(法の執行)についての伺・指令の実態を明らかにするため、租税滞納処分をめぐる藩から幕府役人への伺と回答に焦点を当てて論じた。そこでは、藩の内部問題について上位権力の意向を伺う下位権力の姿がうかがわれた。
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