研究概要 |
知的障害を持つ人は,認知機能が平均以下であるという障害の特徴と,強制的に社会的に保護された環境で生活していることから,生活のさまざまな領域において自由な選択権が制限されている.同意に関する一般的な法的原理は医療裁判の中で発展してきたが,平均以下の認知機能であっても意思決定可能な問題に対しては決定権が保証されなければならないことは広く認められている.知的障害を持つことだけで,あるいは障害の程度だけで,意思決定能力の欠如を推定することは許されないのである.とはいえ,障害のために意思決定能力に明らかな限界が認められる場合には,パレンスパトリエの原理に従うことになる.その場合の知的障害者における同意問題は,未成年者あるいは精神病患者の場合の問題と多くの共通点を持っている.しかし,知的障害者にはいずれとも異なる固有な特徴があるために,特別な議論が必要である. そこで本研究では,インフォームド・コンセントの先進国である米国の判例を中心に,(1)堕胎,(2)不妊手術,(3)養子縁組,(4)医学実験への参加,(5)医療上の処置,(6)任意入院,(7)性行為,7領域において,知的障害を持つ人の意思決定能力がどのような基準と手続きによって判定されているか,また能力が欠如していると判定された場合に,誰がどのような基準によって決定するのかを検証した.その結果,背景となる問題によって,また州によって意思決定能力の判定基準は異なり,また代諾の制度も異なることが明らかになった.たとえば,堕胎については判断基準も緩く,後見人による代諾も認められる傾向にあるが,不妊手術についてはいずれの場合も相対的に厳しくなる傾向がある. 我が国でも今後ますます成人知的障害者の人権への配慮が要求されるようになると予想されることから,米国の判例を参考に,きめ細かい基準,制度作りを進めていく必要がある.
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