研究概要 |
1985年に採択されたEC指令によって導入された製造物責任をめぐる無過失責任原則は、EU市場における競争条件を統一化し,製品の自由な流通を確保することを主たる目的とするものであった.本研究は.EU加盟国における製造物責任立法の現状を明らかにしたうえで,EC指令の採択後15年余りを経た欧州における経験を検証することにより,製造物責任原則の国際的な調和をめぐる問題点について分析することを目的としている。 すべてのEU加盟国のみならずEFTA加盟国においても,EC指令の規定する無過失責任原則を基本とした製造物責任立法が導入されているものの、その解釈及び適用には各国によって相違がみられる。さらに,EU加盟国においては,これらの製造物責任立法に基づく製造物責任訴訟は少なく,多くの製造物責任事件は,裁判外の和解又は伝統的な不法行為法や契約法に基づく損害賠償訴訟によって処理されていることも明らかとなった。そして,無過失責任原則がEU加盟国における統一的な製造物責任原則として必ずしも機能していない理由としては、過失の立証をめぐる被害者の負担は取り除かれたものの,因果関係の立証をめぐって被害者は依然として大きな負担を負っていること,製造物責任事件の多くは少額な物的損害を伴うに過ぎないにもかかわらず,500ユーロ以下の物的損害に対してEC指令の定める無過失責任原則が適用されていないことなどが指摘されている。 その結果、欧州において、米国における製造物責任の危機的状況は、米国特有の社会制度や裁判制度に起因するものであるとの理解が一般的となっており,製造物責任原則を統一することによって製品の安全性や被害者の救済についての国際的調和を図ることには限界があるものとして、製品の安全規制をめぐる国際的な調和を図ることの必要性が強く意識され,その方向に向けた努力が開始されている。
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