研究概要 |
広範囲にわたる金融・経済犯罪への対策を検討するにあたって、報告書では,第1部において、総論的なテーマとして、企業処罰の問題を取り上げ,第2部において,各論的なテーマとして,いくつかの金融犯罪の成立要件を中心に検討を加えた。これら2つのテーマは,わが国の金融・経済犯罪対策において重要性が高く、それぞれの問題に一定の方向性を示すことが、わが国の刑事法にとって一定の意味を有するものと考える。また、これらのテーマに取り組むにあたっては,金融・経済犯罪対策を積極的に推し進めているアメリカ合衆国の動向から示唆を受ける点が多いことから、それぞれについて、アメリカ合衆国との比較法的な考察を行う。 第1部では,現行の企業処罰システムの構造上の問題点を整理し,その克服のために必要とされる立法的な措置による新しい企業処罰システムの構築について検討を加えた。具体的には,企業の代表者の意思や行為を企業の意思や行為と同一視することで,企業の刑事責任を認定しようとする現行の枠組みでは,管理システムの不備や組織構造上の欠陥によって生じる金融・経済犯罪について、企業の刑事責任を問えないことから,新しい発想として、コンプライアンス・プログラムの整備を企業自身に課せられた注意義務と解し,これを適正に整備していたにもかかわらず,発生した犯罪については,企業の管理責任は問われないというアプローチを,アメリカ合衆国の動向も踏まえながら,提唱する。 第2部では,大和銀行NY支店事件を契機に注目を集めたアメリカ合衆国の経済刑法の成立要件につき考察を加え,その特徴を整理する。また、バブル期の不正融資への対策として重要性を高めつつある特別背任罪の成立範囲について,とくに「図利加害目的」という主観的犯罪成立要件に焦点を当て,検討を加え,適正な処罰範囲の確立を目指す。
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