研究概要 |
本研究の最終年度にあたる平成15年度も14年度に引き続き、書評論文「書評:秋田茂・籠谷直人編『1930年代のアジア国際秩序』」(『史林』85巻3号、平成14年)に記した見取図に従い、複数の論文執筆準備を進めた。 第一の成果は、15年10月18日につくば国際会議場で開催された日本国際政治学会「歴史としての日中戦争」部会において、「満州事変から『大東亜戦争』へ-汎アジア主義の政治経済史」と題して報告を行ったことである。アジアで大英帝国・大日本帝国を周縁から支えたインド人・台湾籍民・華僑等の政治経済活動と東アジア通商圏再編が汎アジア主義の台頭に影響を与えたことを実証的に論じ、NGOとしての大亜細亜協会、ディアスポラ・サバルタンによる帝国への影響、通商活動とナショナリズム・地域主義との関係等理論的検討も行った。 第二の成果は、12月20日に北海道大学学術交流会館で開催された国際シンポジウム「いま国連の役割を考える-歴史との対話」の「国際機関の形成過程」部会において、'Race, Religion and "Responsibility for Civilization"'と題する報告を行ったことである。そこでは、満州事変への対応をめぐり国際連盟の基盤となった西洋主義的価値観と対抗したアジア主義の特徴について理論的な整理を行った。 第三の成果は、16年1月14日に京都大学人文科学研究所で開催された人文社会研究プロジェクト研究会(寵谷代表)において、「高橋財政下の帝国経済再編と植民地体制優位競争-汎アジア主義の朝鮮・台湾における経済的基盤」と題する報告を行ったことである。ここでは、高橋財政下における経済ナショナリズムや経済再編の進む植民地における汎アジア主義の台頭を政治経済史的に分析した。 残念ながら最終年度前年の継続申請が認められなかったため、本研究は論文完成を見ぬままひとまず終了したが、その後平成16年度基盤研究B「植民地台湾をめぐる中国ナショナリズム、日本の汎アジア主義、台湾人ナショナリズム」が採用されたため、「台湾要因」を中心に汎アジア主義の分析を今後も継続する。
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