研究概要 |
世界の人々の間に極めて大きな経済格差が存在することは今日の世界における深刻な問題のひとつである。本研究の目的は(1)世界国国から得られる国民所得・人口・国内所得分布表の3種類のデータを全て用いて世界全体を対象としたひとつの大きな所得分布表を作成し,世界全体としてどの程度の大きさの所得不平等が存在するのか,そしてそれが近年どのように推移してきたのかを明らかにすること,並びに(2)不平等計測のための計測理論に関する基礎研究を深めること,である。世界各国の国内総生産データとしてA.Heston, R.Summers and B.AtenによるPenn World Tableの最新版であるPWT6.1を,そして各国の国内所得分布データとしては国連開発大学(UNDP)と国連大学世界開発経済研究所(UNU/WIDER)によるWorld Income Inequality Database(WIID)V1.0を用いて,長期にわたって所得データが記載されている(中国を含む)115国を統合して世界的所得分布表を作成し,1960年代以降2000年に至るまでの世界的所得不平等の推移を計測した。中国を含む115国を対象とした計測結果によれば,1960年代と1970年代には世界的所得不平等はやや悪化の傾向にあったが,以降は逆転して1980年代,とりわけ1990年代には不平等は低下傾向にあることが見出された。しかしながら,サンプルから中国を除外した114国を対象とした場合には,世界的所得不平等はこの30年にわたって上昇傾向にあるとする結論が得られる。このことは,近年の世界的所得分布の不平等低下傾向が中国の急速な経済発展の反映であることを示唆している。
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