研究概要 |
経営悪化の銀行の抽出および経営合理化の程度の計量的な分析を資本市場,銀行の株主,および金融規制当局というガバナンスの観点から行うことが目的であった。結果は,1990年代のデータからはガバナンスをもとに経営悪化を一貫して判別することが困難であった。そのため,株主の構成や株式持合い等の経営への影響については継続して研究している。 そこで,モデル再構築のために経営努力について経費率等の財務変数を用いて期間別に再検証を行った。実際には,1980年代後期から90年代初期のバブル期,90年代はじめから中期にかけてのバブル崩壊直後,90年代中期から2000年代初期に分け,また,業態・業績・再編・負債・規模をもとに分析を進めた。結果として,バブル崩壊直後は積極的に経営合理化が進んだのに対し,1990年代中期以降は経営努力が遅々として進んでいない,もしくは,すでに限界に達しているということが導かれた。なお,バブル期には業績健全行の経費率等は低くかった。業態や再編には強健な結果は現れていない。一方,負債比率や資産規模および前年度の水準は大きく経営合理化に影響を与えていることが分かった。 さらに,ガバナンスによる経営評価の説明ができないことがわが国の金融業界の構造によるものなのか,副次的な研究として,他の金融業界も含めて経済的な競争が行われているか否かについて調べた。証券業界では91年の株式市場のクラッシュ以降に競争が改善され,保険業界では95年以降に競争が改善されていることが分かった。これに対して,銀行業界は,95年から97年にかけて,競争が改善されたものの経営努力の態度としては問題であることが示された。 付け加えて,平成不況における不良債権化問題はマクロ要因によるもので銀行業界自身に起因するものではないこと,貸し渋りもその意味で超過需要が招いたもので,過少供給が原因ではないことも明らかにした。
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