研究概要 |
1930年代に誕生した計算論では,自然数を対象とした計算の研究が中心を占め,数々の重要な成果が発見されると共に,その成果に基づいてその十数年後に実際のコンピュータ第1号が登場した.そのような観点から伝統的な計算論を振り返って見るとき,例えば,自然数以外のデータ構造を直接対象として扱う計算論の登場が,今後更なるアルゴリズムの発展やそれらの解析のための基礎理論として有用であると思われる. 我々は,そのような観点から,自然数以外のデータ構造の中で,理論的にも応用的にも最も重要と思われる二分木を取り上げ,それらを対象とする計算の理論を構築し,次の成果を得た. 1.自然数に対する計算論の中心的概念である帰納的関数と原始帰納的関数の考え方を,二分木の場合に拡張することにより,自然数の場合と同様に数学的に安定した望ましい数々の性質を持つ概念が得られた. 2.二分木を自然数でコード化するある標準的なコード化関数を選び,それに関して自然数上の帰納的(または,原始帰納的)関数と共役な二分木上の関数は,我々が1で定義した二分木上の帰納的(または,原始帰納的)関数と一致することが示された. 3.上の2で述べた事実は,コード化関数の決め方に依存するが,どのようなコード化関数の場合に上のことが成り立つかを調べ,そのための必要十分条件を得た. 上記の研究の過程で我々は,コンピュータやプログラミングが多くの人々にとって身近な存在となった現在,伝統的な視点に必ずしも縛られることなく,もっと自由にプログラミングで得た知見などを盛り込んだ新しい発想の計算モデルを含む,多様な計算論が誕生してもよいのではないかと考え,現在そのための候補の一つを検討中である.
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