研究概要 |
本研究では,競争関係にある2種の個体群の動態を記述する密度依存型の拡散項をもつ反応拡散方程式系を考察し,その系の解の存在・安定性を調べることにより,生物の共存のメカニズムの解明を目標としてきた. 単独方程式の場合には,比較定理やエネルギー関数を用いて,定常解の分岐構造や大域的アトラクタを決定することができ,解の詳細な漸近挙動を理解することができる.しかしながら,連立方程式の場合には,比較定理が成立することは期待できず,このことが定常解の分岐構造などの解析を複雑なものにする一つの要因となっている. 本研究では,パラメータがある値のときには比較定理が成立する反応拡散方程式系を考察し,比較定理や分岐理論などの数学的な方法と,Mathematicaに組み込まれている区間演算機能などの数値的検証法を相互補完的に用いて,パラメータに関する定常解の分岐構造の解析を行ってきた.その結果として,ある条件下での定常解の大域的分岐構造は,Chafee-Infante (1974/75)によって示された単独の反応拡散方程式のそれと類似していることがわかった.また,本研究を通して,数値的検証法は分岐方程式の性質を調べる方法の一つとして有効であることが再認識された. 現在,すべてのパラメータ領域に対して数値的検証が成功していないため,大域的分岐構造が決定できていないパラメータ領域が残されており,当初計画していた研究目標に到達することができていない.今後の課題として,数値的検証法のアルゴリズムやそれを実現するプログラミングの改良を進めていく必要がある.
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