本研究の目的は数理物理に現れる様々な発散を数学的に理解することを目的としている。発散が出現するのはミクロな対象とマクロな対象の問や、有限系と無限系との間のように一つの数学的手法では記述できないときに現れるように思われる。従って発散は相転移や無限粒子系を取り扱おうとすると自動的にあらわれることになる。物理学においては発散の除去は実験と相談することによりその都度ごとに行なわれる。発散についての纏まった考察はくりこみ理論等の発散の有限性のみを取り扱ったものに限られている。本研究の特徴は発散の出現は必然的であり、出現する発散を解析することにより、もとの系を理解できるという立場をとる。 平成12年度、13年度においてはRiemann-Hilbert問題の手法を用いて場の量子論にあらわれる発散の問題を取り扱った。つぎの主題が考察された。(1)場の量子論に現れる発散の標準系を求めることとこれに基づく繰り込み理論とこれに伴うアノマリーの計算法をあたえること。(2)発散の物理的な意味づけとして質量の生成問題をクオーク閉じ込めについて考察する。(3)Non-pertubativeな場合についてもRiemann-Hilbert問題の方法を拡張する。以下それぞれに対して得られた結果を述べる。 (1)について:Riemann-Hilbert問題を発散を持つ系に対して解くことによりその標準系をもとめこれに基づくくりこみの方法が与えられた。この結果次元正則化とPauli-Villarsの正則化の同値性がしめされた。 (2)について:クオーク閉じ込め理論においては、そのグルオンが正質量をもつことを示すことが要求される。ここでは代数幾何の方法により't Hooftのアイデアを定式化することにより、特異ゲージ変換の存在を導き出し、Riemann-Hilbert問題を定式化しこの問題にひとつの解をあたえた。 (3)について:今後はますますNon-pertuativeな手法が要求されるものと予想される。ここではフラクタルによる正則化をめざして無限次元クリフォード代数とその解析の基礎を構築した。ここではクンツ環の表現を用いてくりこみや正則化を与える手法を導入した。
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