研究概要 |
中性子星内部の高密度核物質中で実現が期待される新しいハドロン物質相としてのK中間子凝縮と,ストレンジネス量子数を持つハドロン粒子の一種であるハイペロン(Y)が中性子星物質中に混在した高密度ハイペロン物質との競合関係・共存の可能性を検討した。理論的枠組として,K中間子-核子-ハイペロン(KNY)間相互作用をカイラル対称性を基に取り入れ,更にYN,及びYY間相互作用をハイパー核実験からの情報を手掛かりにして考慮した。まず,(1)ハイペロン物質中でのK中間子の分散関係を導き,その特徴を議論した。その結果,K中間子が有限の運動量を持つp波型(KNY)相互作用に由来して,通常のK中間子の他にK中間子と同じ量子数の集団励起モードが現れ,系がp波型K凝縮に対して不安定になるという,K凝縮の新しい発現機構を見い出した。 次に,(2)臨界密度を越えた密度領域でK凝縮相の状態方程式(EOS)を得,系の特徴,特に中性子星の内部構造への影響について議論した。結果は,ハイペロンの混合によるEOSの軟化に加えてK凝縮による軟化が加わるため,ハイペロン物質中でのK凝縮相のEOSは軟化が顕著になる。そのために系の圧力が負になる密度領域ができるが,その場合に,一般相対論的静流体平衡を与える式を解くことによって,重力によらずに任意の大きさでコンパクトな星として存在でき,中性子星の表面までK凝縮相の高密度状態になるような一種の自己束縛状態が得られることを示した。「K凝縮による自己束縛状態」は熱力学的に準安定な状態を含み,有限の寿命が経過した後,1次相転移の結果として通常のハイペロン物質相とK凝縮相の2相構造をもつ安定な中性子星へ崩壊することを示した。
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