研究概要 |
研究の目的は、主に分子性導体をターゲットに、圧力下でのX線回折の手法を用いて、高圧下での結晶構造の情報を得るための装置開発と測定、解析手法を確立することである。この目的を実現するために、技術的熟練を要しない粉末X線回折用ダイヤモンドアンビルヒルを製作し、圧力下で興味ある物性を示す物質について、以下に述べるような実験を行い、いくつかの重要な結果を得た。 純一次元電子系を有する分子性導体Me_4X(CPDT-TCNQ)_2(X=N, R, As)は、非常に純粋な一次元系でありながら1035K(X=N)、165K(X=P)、185K(X=As)まで金属的伝導を示し、カチオンの違いによって基底状態が異なった絶縁化を起こす物質である。この物質は、室温での加圧に対しても絶縁化が観測される。圧力下X線回折実験を行った結果、Me_4N塩、Me_4P塩では2k_FCDW(電荷密度波)、Me_4As塩では4k_FCDWを起源とする絶縁化が起こっていることが判明した。これを元に、常圧低温の結果を踏まえた統一的温度-圧力相図を完成させた。これは、純一次元電子系分子性導体の本質を探る上で重要な知見を提供するものと思われる。 また、銅の電荷秩序状態によって金属-絶縁体と伝導物性が劇的に変化する、一次元π-d系分子性導体(DBr-DCNQI)_2Cuと(DI-DCNQI)_2Cuについて常温圧力下の詳細な実験を行った。この物質は高圧化で複雑な温度-圧力相図を持ち、特に高圧金属相の出現の原因究明が待たれている。本実験では、格子定数の詳細な検討から、両者は高圧金属相で微妙な構造の違いを有しており、それは、それぞれ独自の高圧金属相出現メカニズムが存在することによるものと解釈した。この結果は、この系の研究の進展に寄与することができると考えられる。
|