研究概要 |
近年,スピントランジスタなど,半導体中の電子の電荷よりもスピンに着目した「スピンエレクトロニクス」研究が盛んになってきた.これらの研究は将来の情報通信分野に与える影響は計り知れないが,半導体中でのスピン緩和やスピン拡散の物理機構は,未だ十分に明らかになってはいない.この様な背景から,本研究は半導体量子構造における励起子スピンの拡散,緩和メカニズムの解明を目的とした. 平成12年4月に現在の大学へ新たに赴任したため,実験に必要な装置を最初から構築することになった.装置としては,フェムト秒パルスレーザー,四光波混合測定系,およびメージング光学系が必要であるが,資金の関係からレーザーは製作し,その他は現有の光学系を組み合わせて構築した.実験はGaAs/Al(Ga)As多重量子井戸半導体およびCdTe/CdMn(Mg)Te単一量子井戸半導体を試料として,スピン緩和と拡散を四光波混合法を用いて測定した. 偏光方向が垂直な2つの励起光パルスを試料上で重ねあわせることにより,空間的に励起子スピンの方向が変調された回折格子(スピン回折格子)を生成し,時間差をつけて入射する診断光パルスの回折をモニターすることにより,格子の崩壊過程の時間発展を測定することに成功した.また位相マスクを用いることによって簡便に2つの励起光パルス間の交差角を変更することが可能である.これにより格子のフリンジ間隔を変えて測定でき,スピン拡散係数を求めた.励起光パルスの偏光が平行の場合は同様の操作で励起子密度の変化(再結合)と拡散を測定することができ,スピン拡散が3.5倍程度励起子密度拡散より速いということを実験的に世界で初めて明瞭に示した.
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